口約束では守られない相続の“現実”
「今は僕が全部相続するけど、母さんの相続のときにちゃんと調整するから」
――そんな“約束”を真に受けたばかりに、大切な遺産を失ってしまうケースが少なくありません。
今回は、「一次相続での口約束が二次相続で反故にされる」典型的な事例を紹介しつつ、そのリスクと回避策について詳しく解説します。
ケース:A男とB美の兄妹に起こった相続トラブル
4人家族のA男・B美兄妹。父が亡くなり、遺産分割の話し合いでA男はこう言いました。
「母さんの介護は僕がやるから、父さんの遺産は全部僕が相続する。
その代わり、母さんが亡くなったときの遺産はB美、お前が全部相続すればいい」
この申し出に対し、B美も同意。
その結果、父の遺産はすべてA男が相続する内容で協議書が作成されました。
しかし、現実は非情でした
A男は約束した介護を放棄し、母の世話をしたのはB美。
そして母の死後、A男はこう言い放ちます。
「母さんの遺産は、法定相続分どおり半分もらう」
B美が「約束が違う」と訴えても、A男はこう切り返します。
「そんな約束はしていない。証拠はあるのか?」
実は法律上、一次相続時に交わした“口約束”や“分配の前提条件”は、二次相続時に一切効力を持たないのです。
相続はあくまで亡くなった本人の財産ごとに判断されるため、夫婦合算の公平性や口約束は通用しません。
「母の遺産を全部相続する」ために必要な2つの措置
このようなトラブルを防ぎ、B美が母の遺産を確実に相続するには、2つの法的措置が必要でした。
① 母の遺言書を作成しておくこと
「私の財産はすべてB美に相続させる」と母が書面で遺言を残していれば、B美には相続の優先権が発生します。
ただし、それでも兄A男には「遺留分(4分の1)」という最低限の取り分があるため、それを請求される可能性があります。
② A男に“遺留分の放棄”をさせておくこと
A男が母の生前中に遺留分を放棄していれば、母の死後にA男は相続を主張できません。
ただし、遺留分の放棄には家庭裁判所の許可が必要で、手続きを本人が行う必要があります。
このように、「父の遺産は兄に」「母の遺産は妹に」という取り決めを確実にするには、法的根拠のある手続きが不可欠なのです。
実際、遺留分の放棄はレアケース
遺留分の放棄は、全国で年間1000件程度しか認められていません。
許可のハードルもあり、認められないこともあります。したがって、このような制度の活用は弁護士などの専門家の支援を受けるのが現実的です。
「言った・言わない」問題を防ぐための鉄則:協議書の作成を忘れずに
一見平和な相続話し合いも、書面がなければトラブルに発展することがあります。
ケース:書面を残さなかったばかりに...
父が亡くなった際、母・姉・弟の三者で「父の遺産は全て母が相続する」と口頭で合意。
しかし、協議書は作成せず、名義変更もしないまま放置されていました。
その後、母と姉が不仲になり、母は「全財産を弟に相続させる」という遺言書を残して死亡。
姉:「母の財産なんて残ってないじゃない」
弟:「父の遺産を相続してるでしょ?」
姉:「そんなの決めてない。今から話し合うのよ」
話は平行線。弟が「3人で決めただろ!」と主張しても、証拠がないため、姉の主張が通ってしまう可能性が高いのです。
遺産分割協議書は「作って当たり前」の時代へ
協議内容を明確に残すため、必ず遺産分割協議書を作成しましょう。国税庁のサンプルに従い、
- 誰が何を相続するか
- 不動産は登記簿どおりの記載
- 後日発見された遺産の扱い
などを明記します。
署名はできれば直筆で。押印は実印で。
名義変更や税務手続きにも必要となる大切な書類です。
親族間の信頼があるからこそ、将来のトラブルを防ぐための証拠を残すことが重要なのです。
まとめ|「信頼」より「記録」で守る相続の安心
- 口約束だけでは相続内容は保証されません
- 「介護するから」「次の相続で調整するから」は法的に無効
- 遺言書と遺留分放棄で初めて“公平な分配”が実現可能
- 協議が成立したら、必ず協議書を作成し、署名・実印で保存しましょう
家族の絆を壊さないために、話し合いと同じくらい「証拠」が大切です。
将来の安心のためにも、相続に関わる合意は「信じる」だけでなく「残す」ことを徹底しましょう。
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