相続にまつわるトラブルの中でも、近年特に目立つのが「生前に故人の預金を相続人が使い込んでいた」という疑惑が浮上するケースです。
特に、親が介護を必要とするようになると、同居している子どもが親の通帳やキャッシュカードを預かって管理するのは珍しくありません。両者の合意がある限り、これは法律上も何ら問題はありません。
問題が表面化するのは、親が亡くなり相続が発生した後です。生前の現金の引き出しや使い道を巡って、他の相続人との間で大きなトラブルに発展することがあるのです。
現金の使い道はブラックボックスになりやすい
親と同居していた子どもは、食費や医療費、介護費用などを支払う目的で親の通帳から現金を引き出すことがあります。
こうした行為自体は当然必要な支出ですが、相続が発生すると…
「医療費や生活費だけにしては、引き出し額が多すぎる!本当は隠し持ってるんじゃないの?」
と、他の相続人から疑われることが少なくありません。
一方、疑われた側も感情的になります。
「介護を私ひとりに押しつけておいて、何を言うの!」
こうして感情のもつれが激化し、相続争いへと発展してしまいます。
証明が困難な「現金の使い道」
現金の支出は、使途を後から証明するのが非常に難しいのが実情です。
領収書などをすべて保存していない限り、使い道の詳細を明らかにすることはほぼ不可能といってよいでしょう。
たとえば、年間で1000万円近く現金を引き出していたケースでは、「すべて生活費に使った」と主張しても説得力に欠けることがあります。
水道光熱費や通信費、固定資産税などは口座引き落としになっていることが多く、現金は使われません。医療費は現金での支払いもありますが、確定申告の医療費控除の明細から履歴をたどることができます。介護施設に入っていた場合は、施設の利用明細で支出の確認が可能です。
それらを除くと、現金で支払って内訳が不明確になりやすい費目は、食費や旅行費くらいしか残らないのです。
「80代の親が、年間1000万円もの現金を日常費用に使った」と主張しても、現実的には無理があります。
同居していた相続人が「横領」に走ってしまう理由
「親の預金を横領した」と聞くと、当然ながら非難されがちです。
しかし、すべてのケースで「その人だけが悪い」と簡単に切り捨てるのは早計かもしれません。
背景には、介護の労力がまったく報われない相続制度の現実があります。
「寄与分」が機能していない現実
親の介護に尽力した子どもが、相続で優遇されるための制度として「寄与分」があります。しかし現実には、この制度が十分に機能していないことが、預金の横領という悲しい事態を引き起こしている要因の一つです。
親が何も対策を取らないまま認知症を発症してしまうと、遺言書も生前贈与もできなくなります。
介護してきた相続人は、相続後に寄与分を主張するか、他の相続人の理解を得るしかありません。
ところが、他の相続人が協力的でないことも多く、寄与分も裁判で認められにくいのが実情です。
そのため、介護者は「もうこれしか方法がない」と感じて、通帳から少しずつお金を抜き始めてしまう…。こうしたケースも実際にあるのです。
※もちろん、横領は違法行為であり、決して正当化されるものではありません。
本当に横領していなくても疑われるリスクがある
何もやましいことをしていなくても、相続人間で疑心暗鬼になるケースは少なくありません。
特に、同居して通帳管理をしていた相続人は、他の相続人から不正を疑われやすい立場にあります。
横領を疑われないための対策|簡単な帳簿をつけておく
防衛策としておすすめなのが、「簡単な帳簿」をつけておくことです。
具体的には以下のような方法です。
- ノートを1冊用意する
- 左ページに、現金を引き出した日付・金額・用途を記載する
- 右ページに、対応するレシートや明細を貼り付ける
これだけでも、後から「何に使ったか」が明確になります。
他の相続人も安心し、感情的なトラブルを未然に防ぐことができます。
さらに、定期的に家族へ共有しておくことで、不信感を防げます。
たとえばお盆や正月の帰省時などに、「今こういうふうにお母さんの通帳を管理しているよ」と伝えるだけでも十分です。
通帳を処分しても、過去の履歴は消せない
「古い通帳は捨てたから大丈夫」と考えている方もいるかもしれませんが、それは大きな誤解です。
相続発生後、相続人は単独で亡くなった方の銀行口座の過去最大10年分の取引履歴を取得することができます。
この手続きには、他の相続人の同意は必要ありません。
つまり、「通帳を処分すればごまかせる」という考えは通用しません。
通帳管理は「信頼」がすべて。慎重な対応を
親の通帳を管理することになったら、細心の注意を払いましょう。
預金は、将来の相続の対象にもなる重要な財産です。
家族間の信頼関係を守るためにも、以下のことを心がけてください。
- 現金の引き出しは記録に残す
- 出金の用途を明記する
- 定期的に家族に状況を共有する
- 預金の使用は必要最低限にする
- 「後で説明できる」ように備えておく
通帳管理は、親子の信頼と家族の平穏を守るための“重責”でもあります。
不必要な疑念を避け、安心して介護に集中できる環境を整えるためにも、「記録を残すこと」「見える化すること」を意識しましょう。
投稿者プロフィール
最新の投稿
相続税2025年6月13日【相続の落とし穴】「次の相続で調整するから」は信じてはいけない
相続税2025年6月12日生前贈与は「遺産の前渡し」—知らないと損する3つの注意点
相続税2025年6月12日横領多発!?両親の通帳管理は「信頼」と「記録」がカギになる
相続税2025年6月11日認知症と診断されたら相続対策はできない?介護と遺産に関する法的な注意点

